名古屋高等裁判所金沢支部 事件番号不詳 決定
本籍 岐阜県○○市○○○○○○○番地の一
住居 ○○県○○○郡○○○町○○○○○番地
○○学院在院
洋服仕立職
町田正一(仮名) 昭和九年一月二十四日生
主文
原決定を取消し本件を富山家庭裁判所に差し戻す。
理由
記録によると本件窃盗は少年が住込の洋服仕立職人に雇われている中、主家の商品並に主人の時計を窃取した四件の犯罪事実であるが、おゝむね其の被害が回復されているのみならず犯罪内容が比較的軽微であること、少年の既往の性行としては、汽車の無賃乗車と酒一升の窃取事実がある外特に悪質常習と認められる非行の存在が認められず原審判当時の状態は自宅にミシンを購入して四年間習得した洋服仕立の技術をもつて生計の方針を樹立して居り、本件犯罪時の少年の境遇とはその生活条件を一変しているのである。他方少年の家庭は少年に取つては継母とは云え、亡母の実姉が母であり、実父並に同胞一同の家族間に格別風波の種なく、一家の生計も尋常であることが窺えるから、少年の将来を家庭において、戒慎自立せしめることは決して不可能とは思われない。以上諸般の見地から考えると、少年が本件抗告において訴える心境は一応これを容認すべき理由は十分というべく、本件の処分としては、少年をその意思と誓言を排してまで強いて少年院に収容する手段よりも、家庭において関係機関の保護観察に付することが少年保護政策の目的に適合するものと認める。
そこで少年を中等少年院に送致した原決定は著しく不当であると認めるから、これを取消し原裁判所に事件を差戻すべきである。
よつて少年法第三十三条第二項により主文の通り決定する。
(裁判長判事 吉村国作 判事 小山市次 判事 沢田哲夫)
別紙一
昭和二十八年少第五七号
送致決定
本籍 岐阜県○○市○○○○○○○番地の一
住居 富山県○○○郡○○○町○○○○○番地
洋服仕立職
町田正一
昭和九年一月二十四日生
上記の者に対する窃盗保護事件について、当裁判所は審理を遂げた上次の通り決定する。
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
少年は
一、昭和二十七年八月十日午前九時頃○○市○○町(通称ハルピン街)○山某方二階六畳間に於て同人所有のトロピカル薄茶色男物ズボン一着を窃取し
二、昭和二十七年十月十日午后六時頃○○市○町四三八番地○海○茂男方に於て同人所有の鼠色ミルドサージ合服地薄茶色ポーラ夏服地各一着分(時価一四、五〇〇円相当)を窃取し
三、昭和二十八年一月八日午后七時三十分頃前記同所同人方より同人所有の鼠色レインコート一着(時価五、五〇〇円相当)を窃取し
四、昭和二十八年一月十七日午前七時四十分頃前記同所同人方より同人所有のクローム三針一二型腕時計一個(時価八、〇〇〇円相当)を窃取したものである。
法律を適用するのに少年の判示所為は各刑法第二三五条に該当するところ少年調査官の調査の結果並に当審判廷に於ける少年及保護者町田実の各供述を綜合するに少年は洋服仕立職見習中非行を犯しては職場を転々しその間屡々無賃乗車をなし又鑑別結果によれば嘘言性が窺われ虚栄心も強く、少年の反省改悛の情は充分とは思われない。のみならず家庭には実父継母あるも保護の積極性がなく充分なる保護を期待することが出来ない。以上少年の性格、環境及び犯情等を綜合考察して中等少年院送致を相当と認め、少年法第三四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項を適用して主文の通り決定する。
昭和二十八年三月十七日
富山家庭裁判所
裁判官
別紙二
抗告申立書
本籍 岐阜県○○市○○町○○○○
住所 富山県○○○郡○○○町○○
居所 ○○市○○○町ウ六○○○学院
町田正一
昭和九年一月二十四日生
昭和二十八年三月十七日富山家庭裁判所において、中等少年院送致の決定により同三月二十四日○○学院に入院しましたが抗告申立に及びます。
抗告の趣旨
原審の決定を取消し、事件を原裁判所に差戻す旨御決定を求めます。
抗告の理由
僕は一時は家出をして居て悪い事をしましたが、悪いときがついて真面目に働きましたがこの事がわかつて審判の上こゝに入れられましたが初めての事ですから今度だけは許して家へ帰して下さい。
真面目になつた僕ですから、こゝに居るより家で働いた方が僕にも父母にもいいと思つております。どうか僕のいゝところを認めて社会へ出してやつて働かしてやつて下さい。また僕は二度と社会の人達に迷惑はお掛けしませんからお許し下さいお願いいたします。
昭和二十八年三月二十五日
町田正一
名古屋高等裁判所金沢支部御中
前記拇印及び署名は本人のものであることを証明します。
○○学院教務課長○○○○
本抗告申立書は昭和二十八年三月二十七日本人より之れを受取りました。
昭和二十八年三月二十七日
○○学院長○○○○
別紙三
昭和二十八年少第一八五号
不処分決定
本籍 岐阜県○○市○○○○○○○番地一
住居 富山県○○○郡○○○町○○○○○番地
洋服仕立職
町田正一
昭和九年一月二十四日生
上記の者に対する窃盗保護事件について、当裁判所は審理を遂げ左記の通り決定する。
主文
この事件について少年を保護処分に付さない。
昭和二十八年十二月二十五日
富山家庭裁判所
裁判官